弁護士 静谷豪
交通事故に遭われた場合、ケガをしたことや後遺障害が残ったことに対するいわば人的な損害賠償と、自動車の修理が必要となったことなどに対するいわば物的な損害賠償とが問題になります。前者は「人損」、後者は「物損」と呼ばれています。
今回のコラムでは、「物損」に関する基本的な考え方を整理してみたいと思います。
まず出発点としては、修理費用相当額の賠償を求めることになります。修理すれば事故前と同様に走行することができるからというのがその理由です。
ですが、修理をしても元通りには戻らないという場合もあります。たとえば自動車のフレームのような重要な構造部分が大きなダメージ受けたような場合だと、修理をしても元通りに走行することはできないでしょう。そのような場合を「物理的全損」と呼ぶのですが、事故車と同等の車両の事故時における市場価格(購入価格)が損害として認められることになります。要は、同じ程度の物を調達すれば元通りになったのと同じだということです。
また、修理が可能ではあるけれども、修理費用が著しく高額となってしまい、事故前の車両の価格を超えてしまうというような場合もあります。この場合を「経済的全損」と呼ぶのですが、事故前の車両価格の限度でしか賠償を受けることはできません。高額な修理費用をかけるよりも、同等の車両に買い替えた方が合理的であるというのがその理由です。ただ、同等の車両を見つけることが困難な車両であって、被害者が自動車に強い愛着を持っているようなケースでは、修理費用が認められることもあるようです。
それでは、評価額ゼロの車両の場合はどうでしょうか。「そもそも価値がゼロなのだから、壊れたとしても損害はゼロだ」という考え方もあり得ますが、被害者にとってみれば、実際に使用していた車を失うことによる不利益は避けられません。そのため、ある程度の損害を認めることもあるようです。
以上が物損に関する基本的な考え方ですが、根底にあるのは「物理的に事故前と同じ状態を回復すればそれで足りる」という発想です。
もっとも、一般的に修復歴のある車は、そうでない車と比べて下取り価格が低下する傾向にあります。このような「車の価値が下落すること」が損害として賠償の対象になるのでしょうか。
これはいわゆる「評価損(格落損)」と呼ばれる問題です。基本的な考え方としては、「初年度登録からの期間、走行距離、修理の程度、車種等を考慮して認定する」ということになっていますが、残念ながら評価損が認められるケースは比較的年式の新しい高級車である場合に限られています。
この他にも物損には細かい問題がいくつかあります。人損に比べれば、被害者ご本人と保険会社との間で示談が成立するケースも多いですが、物損についても我々弁護士が対応した方がスムーズに解決できるケースがあります。どうぞ一度お問合せください。